構造計算でSRC造の知識は不要になったのか?

建設中の建造物

中高層建物の構造形式で主流となっているのは、
鉄筋コンクリート造(RC造)と鉄骨造(S造)ですね。

この二つをハイブリッドさせたのが鉄骨鉄筋コンクリート造(以下SRC造)です。
25年ほど前は、SRC造もRC造やS造程ではないですけど、主流に近い構造形式でした。

でも、今はほとんど使われることがないです。

ただし、だからと言って構造計算において今後SRC造の知識は不要かというと、全くそんなことはありません。

「どうしてSRC造は使われなくなったのか?」

推察される幾つかの原因と、現在でもSRC造の知識が必要とされる具体的なケースについてお伝えしたいと思います。

高強度コンクリートの開発

強い男
(写真はイメージです)

私が構造計算を始めた頃は、コンクリート設計基準強度:\(Fc\)が\(Fc=210[kg/cm^2]\) でした。
(今の\(Fc=21[N/mm^2]\)に相当)

当時は\(Fc=270\)~\(300[kg/cm^2]\)など使おうものなら大変なことだと言われた覚えがあります。ですから、中高層(10階建より上)の建物ですとコンクリート強度に限界が有りますので断面を大きくせざるを得ません。

そこで鉄骨の力も借りて断面を抑えることをせざるを得なかったのでしょう。

今は\(Fc=36[N/mm^2]\)まで一般的なコンクリートですし、60\(N\)まで鉄筋コンクリート造構造計算規準で扱ってます。

コンクリートの高強度化で、高層建物が鉄筋コンクリート造にて成立可能となったわけです。コンクリートの技術進歩が一つの構造形式の盛衰を握ってしまったように受け止めてます。

確認申請の取り扱い

(写真はイメージです)

SRC造が少なくなりだしたのは、2000年代に入りだした頃です。

この頃の建築実務の状況は「確認審査の民間開放」が行われはじめました。2000年になる前は、確認申請は行政庁の専管事項(行政庁しか行えないこと)だったのです。

なので、確認審査対応の時、それはそれは大変なことも有りました。(行政庁特有のことも有るのでここでは控えますね。)

実は、当時のある特定行政庁では「内規」という内々での規則を持っていまして、その内規に「高さ31m超の建物はS造またはSRC造とする。」という一文がありました。

この内規のおかげで11階建からは必然的にSRC造とされてたわけです。

でも・・・

2000年になって確認審査が民間機関へ開放されました。

すると、この「内規」は民間機関では適用されません。

そうなりますと、11階建て以上でもRC造で構造計算が出来ることになります。行政庁に確認申請を出すとSRC造にしなければならないけど、指定民間確認審査機関ならRC造でOKになる。妙なダブルスタンダード状態だったのです。

また、世の中は経済の原理が優先されることが多いですよね。建設現場でも然り。

SRC造で設計された建物が「VE(ヴァリュー・エンジニアリング)」と称したRC造へのコストダウンを建設会社主導で行われていたこともありました。

こうしてSRC造が採用されなくなって 、次第に稀な構造形式の仲間入りとなっていくのでした。

SRC造の知識が必要となるケース

鉄骨と鉄筋コンクリートが絡み合うのが鉄骨鉄筋コンクリート造(=SRC造)でしたね。

では、現在主流の鉄骨造や鉄筋コンクリート造でSRCの知識が使われないのか?というと意外と通常業務で使うのですよね。

幾つか例に上げてみましょう。

1) 鉄骨造の根巻き柱脚

鉄骨造の柱脚は露出型が最も多いですね。次に根巻き柱脚、埋め込み柱脚と続きます。

根巻き柱脚は鉄骨柱の周りに鉄筋コンクリートの柱をつくるようなものですから使う知識はSRC造なんです。

2) 地下のある鉄骨造

地下階の室内を鉄骨造として作ってる建物があります。建物外周部は土圧を負担させる鉄筋コンクリートの壁(土圧壁)を廻します。

すると土圧壁を支持する梁と柱はRCとなってますけど上階の柱や1階の鉄骨梁が取り付くにはSRC造としておくのが納まりよく出来ます。(設計も簡単になります。)

3) 体育館の屋根

体育館の屋根は鉄骨造で作りますけど、体育館の柱や梁はRC造というのがあります。このときにも屋根の脚元はSRCの納め方を用いたりします。

このように、建物全てをSRC造とする選択肢は随分と減りましたけど、局部的にSRC造の知識が必要となるケースが多々あります。

今は余り目にしないからといって全く知ろうとしないのは良くないですよね。

これからの構造計算でもSRC造の知識が必要になるケースがあることを憶えておきましょう。