構造計算に掛っている2つの数

私かあなたが建物の構造計算を行ったとします。

構造計算結果がダイレクトに人命を左右するとして
責任のすべてを負わされるルールならば

『コワくて構造計算なんて仕事として選べない!』
という気持ちになりますよね。

反対に、構造計算なんて誰が行っても一緒なのだから。
『とりわけ、あなたに行ってもらわなくて構いません。』
と言われてしまうと、、

これはまた寂しくもあり残念な気持ちになります。

世の中に完全なモノというは存在が極めて稀です。

人間は完全な存在ではありません。
物体(材料)も完全な存在ではありません。

完全でない人間が、不完全な材料を用いて
建築を造るという行為を行っているのが実状です。
(この言葉は木村俊彦先生の著書に書かれてた言葉です。)

このような言葉で書きますと
「なんだ、建築とはとても不完全なのか。不安だな。」
と捉える人も出てきますね。

でも、実際に建物は建っていますし
地震時でも損傷受けながら倒壊を防いでます。
なぜでしょうか?。

・・・・・・・

それは、あらかじめリスク回避として
ある数を掛け合せて計算しているからです。

その数値を「安全率」とか「余裕度」と呼んでいます。

では安全率/余裕度とは、どのような数値で
どれほど考えておくべきでしょうか?

1)「安全率」について。

まずは、「安全率」から。
安全率というのは構造計算の世界では使用する材料に掛ける数で

建築構造で扱う材料は、過去の実験などから導かれた材料強度が定められており

建築基準法では「F値」という値で示されてます。

コンクリートならば建築基準法施行令97条で材料強度が規定されていて

鉄骨では建築基準法施行令96条で材料強度が規定されてます。

木造はどうでしょうか?
木材でも存在し、建築基準法施行令95条に載ってますね。

それで、各々の建築材料に基準強度が定められていて
でも、材料強度目一杯を使って構造計算で
部材の断面を計算してしまうとどうなるのでしょうか。

もし、
「完全でない人間」の万が一でのミスや
「不完全な材料」の素材のバラツキと重なった時に
大きな事故につながる恐れが有ります。

それでは社会的な存在としての建築にたいして
信頼性が崩れてしまいます。

ですから、
建築材料に「安全率」という数字を掛け合せて
見かけ上で材料強度を低減させて構造計算するわけです。

それで、常に使用する状態での材料強度については
元々の強度の「1/3まで」と決めてあり、

地震や風などでは元の強度の「2/3」までとしております。

加わった外力が材料強度を超えない限りは
その材料は耐え続けられます。

2)「余裕度」について

ある建物の構造計算を行いまして、
規定されている必要な耐力とか応力度についてはクリアしています。

けれど、必要最小限の数値では不安要素も有るので、
幾分が積み増しした安全性を確保したい。

上のような状況で考えておくのが「余裕度」と呼ばれる数値です。

例えば、大地震での建物の倒壊を防ぐ目的で
保有水平耐力計算という計算を行うのですが、

保有水平耐力計算の作業の中で
「必要保有水平耐力:Qun」という数値を算出します。

この値は建っている地域/建物の形状や重量から導き出されます。

一方で、建物の保有水平耐力:Quは
自分で計算して求めた部材の断面と
部材の材料強度から部材の耐力を算出します。

建築基準法ではQu/Qun≧1.0であればよいと定められています。

Qu/Qun=1.0でもクリアです。
しかし、地震は人間の予想通りにはやって来ません。
必ずと言っていいほど予想を超えた現象になるのがほとんどです。

予想を超えた地震力が来たとしたら
Qu/Qun=1.0では、ひょっとしたら
倒壊するのかもしれませんね。

そこで、 Qu/Qun(:「保有水平耐力比」と読んだりします。)
をどのくらいの余裕をみておきましょうか、という際に
「余裕度」という単語を使ったりします。

安全率が材料などに掛かる数字ならば余裕度は計算された建物側、

すなわち計算する側にたってリスク回避をする考え方です。