層間変形角:1/200[rad]の根拠

2022/9/30 この記事を加筆・修正いたしました。

高層ビル群

建築の構造計算を行うと必ずチェックする項目の1つに
層間変形角:1/200[rad]
があります。

その層間変形角の規定が存在する理由を知らずにチェックしても、何のことだかわからないですね。

今回は層間変形角に焦点を当てて知識を整理していきましょう。

層間変形角は何のためにあるの?

1985年に施行された耐震設計法が、現在(2022年)の建物での構造計算のベースになっています。

建物の全体性状を整える3つの条件が層間変形角/剛性率/偏心率
層間変形角とは、水平力を受けた骨組みの水平変形量と1層分の高さで求めます

最新の構造規定では、大梁間の高さではなく上下階スラブの高さで測ることが明文化されています。

そもそも、層間変形角が設けられたのはこんな理由からです。

  • 建物躯体の損傷を抑える
  • 外装材やサッシュの脱落防止
  • エキスパンションジョイントの適正なクリアランス確保

建築物は中地震(おおよそ震度5程度)で損傷しても、補修すれば継続的に使用可能であることが建築基準法で求められます。

ゆえに地震時の水平変形を抑える目的で、層間変形角 1/200[rad](ラジアン)が設定されているのです。

そして、層間変形角は「稀に起こる地震」(中地震:震度5程度)「極めて稀に起こる地震」(大地震:震度7程度)とでは、守ってほしい値が異なることに注意しておきましょう。

層間変形角:1/200[rad]の根拠

ところで、層間変形角のクライテリアである1/200[rad]という数値は何を根拠に定められたのでしょうか?

たとえば、1層の階高を4[m]と仮定しますと、地震時での層間変形角が1/200[rad]ならば水平変位量は2[cm]。

この程度の変形量なら内外装に目立つ被害は少ないでしょうし、カーテンウォールの脱落や設備関係の配管系統の故障にも繋らないと察します。

もちろん、構造体に大規模な補修を必要とする影響は出ないでしょう。

鉄筋コンクリート造(含むSRC)は、断面が過小でなければ層間変形角が1/200[rad]を超えることはないです

しかし鉄骨造では、ブレース構造だと水平変位は小さいですがラーメン構造では1/200[rad]を超えてくることはあります。

その時は外装材の変位追従性を確認する必要があります。

層間変形角:1/200[rad]を守る

では、層間変形角1/200[rad]を確保する必要がある外装材とは何でしょうか?

例を挙げますと、カーテンウォール石貼り/タイル貼りの外壁です。

特に高層階に上記の外装材を使うと地震時に脱落したら地上に凶器として降ってきます。

なので、構造技術者は外装材の知識を備えておく必要があります。

それから、外装材の取付け方についても理解を深めましょう。

ロッキング構法というのは、どういう取付け方で構造体の水平変形に対しどのような追従の仕方で動くのかを理解していませんと、告示で求められている「帳壁の検討」を自分自身で検討ができないとか、メーカーからの検討内容も妥当性を確認できないことになります。

層間変形角:1/200[rad]の緩和

耐震設計ルートで層間変形角1/200[rad]を超えても認められる建物があります

鉄骨造で外壁にALC版や押出成形セメント版を使っていて、仕上げがタイル/石貼りで無いならば1/150[rad]まで緩和されます。

さらに金属板サイディングを用いると1/120[rad]まで認められます

層間変形角を大きくとることが認められるのは一見良いように映りますが、それだけ「揺れやすい」建物だということです。

揺れやすい建物が交通量の多い道路沿いに建つと、地面からの振動を拾いやすくなります。

建物内にいる人は不快に感じますし、更にはクレームにつながるでしょう。層間変形角の緩和規定があることを安易に受容するのは注意が必要です。

層間変形角:1/200[rad]超の要因

一貫計算などで一通りの計算処理が行われた後で、層間変形角の出力を確認したときに1/200[rad]を超えていたとします。

この時、部材変更をスグに行わずに層間変形角1/200[rad]を超えた要因を自分の目で見つけましょう。

着目点としては下記に例を挙げます。

  • 最も変形している節点(柱)はどこだろうか?
  • その節点(柱)は水勾配などで他の柱よりも短くなっていないか?
  • 柱脚回転剛性が弱く(低い値)なっているか?
  • 基礎梁の無い柱の支点がピンのままとなっていないか?

どこが最も1/200[rad]を超えているのか捉えきれば、むやみに部材変更をして作業を浪費するよりも効果的に対応できます。

層間変形角:1/200[rad]とコスト

層間変形角1/200[rad]を守るとはいえ、その計算結果が十分にクリアされてるケースがあります。(ラーメン構造に限定です)

たとえば、鉄骨造平屋建ての倉庫で層間変形角が1/500[rad]だとしたら部材断面サイズや柱脚の仕様が必要以上となっているかもしれません。

また、複数階の建物で特定の階だけ層間変形角が小さいのも好ましいことではありません。

この場合も、部材断面サイズや材端の接合条件の見直しを図ることが考えられるでしょう。

構造計算はコストのバランスを見ながら行っていくものです。

層間変形角は、中地震程度の構造計算=許容応力度計算の範囲だけでなく、大地震時での保有水平耐力計算でも崩壊型の確認時と保有水平耐力決定時で使用します。

許容応力度計算の範囲では、1/200[rad]を基点として緩和規定があると覚えておきましょう。

#近代建築の外装材

近代建築は、鋼/コンクリート/ガラスの3要素が主で構成されています。

鋼とコンクリートは構造躯体に用いられてガラスは外装材に使用されます。

建物が地震力を受け、水平変形をしたとき変形が大きいとガラスは割れます。

カーテンウォールは建物の変形が大きいと建物から脱落します。
これが、高層建築物で生じると地面に歩いている人の人命に関われる大惨事になります。

#設備配管

高層建築物では上階での居住/使用者に向けて給排水設備が不可欠です。

その配管が地震力による水平変形によって大きく傾いたり、
破損した場合には上階への供給が遮断されます。

そうなりますと建物の継続的な利用が出来ませんので使用不可能となります。

これでは困りますので配管の破損防止から
構造躯体を一定の変形量で抑える必要があります。

層間変形角のクライテリアは、

  • 建物躯体の損傷を抑える
  • 外装材/配管の損傷防止で居住性確保

の2つが主眼に置かれてます。

建築物は中地震(おおよそ震度5程度)で損傷しても補修すれば継続的に使用可能であることが建築基準法で求められます。

ゆえに地震時の水平変形を抑える目的で層間変形角1/200[rad](ラジアン)が設定されているのです。

1/200[rad]とは、階高4[m]ならば2[cm]の水平変形量です。
覚えやすい数値なので記憶しておきましょう。